私はいつも違和感を覚えながらそういった記事や話を聞くのですが、正解は「物件や立地によるので一概には言えない。」です。
おそらくですが、事業用物件を専門に扱う業者は不動産業界の中でも少なく、投資家の方の経験値としても店舗や事務所への投資というのは未知数のケースが多いため大した検証もされずに避けられている、というのが実情ではないでしょうか。
居住用ばかり扱う業者が顧客から事業用物件の事を聞かれてもよくわからないため、リスクが高いの一言で片付ける場面は想像に難くありません。書籍等で取り上げられる事も少ないですし、本で読む内容と現場での経験は必ずしも一致するとは限りません。むしろ店舗や事務所は独特の商慣習や特殊な事情を含む事の方が多く、無理解のまま進めると思わぬトラブルや痛手を被る可能性があるかもしれません。
しかし、出店ニーズや会社設立、移転等は景気によっての変動があるもののニーズ自体には根強いものがあり、物件によっては人気が集中するものです。立地や賃料だけでなく総合的な取引条件を比較されるのは住居でも事務所でもよくある事ですし、そもそも比較される物件が無ければ何の交渉も無しに「借りさせて下さい」と頭を下げて契約に来られるテナントさんもおられます。
ただ、ニーズのある物件と無い物件の振れ幅が大きいのは間違い無い部分であると言えます。そもそも出店ニーズの無い物件を購入してしまうといくら賃料を下げても成約しないという事にもなりかねません。
おそらく空室リスクが高いというのはこの事を指して言われてるのだと思うのですが、それは物件選定が悪いのでしょう。
日々色んな店舗や事務所を見ますけども、いくら賃料を下げてもテナントが決まらない物件というのは買ってはいけない物件です。価格の安さや利回りの高さを見て飛び付いてしまう気持ちはわかりますが、店舗物件、事務所物件は利回りの高さよりも空室リスクの低さを優先して見る方が確度が高いと思います。
やはり一番大事なのは立地を始めとしたバランスです。いつの時代も立地の良い物件に人気が集中するものですが、一棟収益物件では予算が合わない場合でも区分所有なら良い立地の物件が買えるかもしれません。
そして良い立地を押さえる事が出来ればそれは一生ものです。少々景気が悪くても、建物が古くても立地が間違いなければテナントは付きます。景気が悪ければ多少賃料は下がるかもしれませんが、何をしても決まらないというのはよほどの事です。立地さえ間違えなければ入居時の改装も退去時の原状回復もテナントがやってくれます。
表面上の利回りよりも所有期間全体として見た実質利回りが高くなるのも区分店舗、区分事務所の特長のひとつです。
ただ、大切な事なのでもう一度言いますが、くれぐれも物件選定は間違えないで下さい。
入退去のタイミングでもそうですし、外壁や共用部分の改装を怠るとジワジワ入居率が下がってきますし入居者の質も落ちてきます。
最悪の場合は外壁の落下やエレベーターの故障等、致命的なダメージを受ける事も考えられますので、一棟マンションとマメなメンテナンスは通常セットなのですが、これには手間と費用がかかります。
また、入退去時の改装でも10年20年入居してくれていた部屋で退去が出た場合等、ほぼフルリフォームが必要ですし、当時の賃料水準を維持するために必要な改装費用は3年分の賃料相当額だったりすることもザラにありますので、なんのためにやってるのかわからないというグチが聞こえてきそうです。
管理会社に任せっきりだとしても管理会社を監督する手間はかかりますし、いちいち見積もりをチェックするのも意外と大変です。
区分所有の店舗・事務所なら管理費と修繕積立金として毎月管理組合から徴収されますので基本的にメンテナンスコストはそれだけです。
確かに管理組合や管理会社によってメンテナンスのレベルは当たり外れがありますが、それは物件を見に行けばよくわかりますので、よくメンテナンスされているビル、清潔感のある建物を選ぶと良いですね。(修繕積立金がいくらたまっているかチェックする事は短期的にはあまり影響がありませんが長期的に見ると重要なポイントです。)
「毎月管理費と修繕積立金がかかってるのだったら一緒やんか!」という声が聞こえてきそうですが、区分店舗、区分事務所の現在の相場では表面利回りではなく管理費等を差し引いたNET利回りで価格が決まるケースが多いため、予めメンテナンスコストを差し引いた利回り計算で相場が固定しています。
これは一棟収益には無い特長なのですが、見通しが立てやすいという利点があります。そう考えるとトータルの利回りでは一棟収益よりも高く、立地の良い物件もチラホラあるという事実にも説得力が出てくるのではないでしょうか。
これが中々の曲者ですね。
一棟マンションの賃料下落リスクは基本的に築年数の経過と共にジワジワ賃料が下がっていく事に原因があります。競合となるマンションやアパートが建てば建つほど値下げの圧力が高まってくるのですが、特に新築時から築5年位までの時期が下落幅が大きい様ですね。逆に築30年位経ってしまえばそこからはほとんど下がりません。
リーマンショックの様な大きなイベントがあると大きく下がってしまいます。
しかし景気が良くなるとまた回復するのも特徴のひとつで、特に都心にその傾向は顕著です。居住用と違い経年劣化はそれほど関係ありません。
居住用は賃料が回復するという事はよほどの事が無い限りはありません。その代わりに落ち方が緩やかなのが良い所で計算がしやすい、予測が立てやすいと言えるかもしれません。
ただし賃料下落の圧力に関して住宅地の物件と商業地の物件とで大きく違う点があります。それは競合物件の増加率です。
比較される物件が多ければ多いほど賃料は下がっていくと思って頂ければ間違いないのですけど、住宅地と商業地では開発出来る余分な土地と言えば良いのでしょうか、駅前立地や繁華街等地価の高い場所、立地が良ければ良いほど競合物件が増加しにくい傾向にあります。商業地は土地に対して建物がいっぱい建っているからです。
住宅地では今でもアパートやマンションが建築されているのをよく見ると思います。ですので見方によれば外部の影響を受けやすいのは実は住宅地の方でしょう。
世の中の景気は良くなっているのに競合物件が増えて賃料の下落が止まらないというのは実はよくあるケースと言いますか、ほとんどのマンションオーナーが直面する問題です。
一棟マンションと事業用区分所有の違い、店舗や事務所の大きな特徴として以上の3つを挙げましたが店舗が良いとかアパートは良くないというつもりは全くありません。どの様な物件に投資するとしても選び方が大切ですが、特長やメリットデメリットをよく検証した上で判断する事が重要だと思います。
上記に述べた事業用区分所有物件の特長についてはあまりクローズアップされない分野ですので、宜しければ皆様の選択肢のひとつとして検証して頂ければ大変嬉しく思います。
小泉